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人格

アフォーダンス・ログ

 空が張り付いたビルの屋上で白々しい他人の温い手の温度に背中を押されて弾き出された。散らばった彼の破片たちを回収するには僕たちの疲労はあまりにも捷く、忙しなく、優しさに満ちあふれた往来の人びとは彼の破片を粉々に砕いて行く。

 

 破片たちは無数の青い綿毛となって叫び声と反対の方向へ向かってから空へと上昇し、ビルの屋上に戻って行く。連帯の外に出る方法にたどり着くには、あまりにも離れすぎた。往来の中の孤独が、向かいのビルの中へと回収されて行く。彼は何処かで見たことがあると、記憶が私に話しかける。

 

 青いプラタナスは白い布に包まれている。その光景を見たモダニストが口角を上げる。何かについての反省はようやく終わる。かかり過ぎた。強打と鉄の匂い。気配を感じて椅子をくるりと回す。後ろを振り返ると白い帽子を深々と被った女性が右の白い柱から覗き込むようにして、こちらを見て何かを言った。「私、眼が見えるようになったの」「わからないな」「私、眼が見えるようになったの」。

 

 太陽は落下して、青空は呆れ果てて球体の裏側へと差し掛かかろうとしていた。真冬の光線と青い空と白くて無機質な建造の結末が解け合う空間に足を止め、擦り切れるまで見せられた現在までの記憶と弛緩した夢の間で、疾うの昔に脳は枯れ果てているのに、それに気が付くことができない。