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人格

豆腐屋

 仕方なく13時に眼を擦りながら布団から零れるように這い出る。眼を擦る。もう何度も違う生活をやり直すことに失敗している。計画も立てず、同じような休日がカレンダーに色を塗っている。冷蔵庫にあったオレンジジュースを注ぐ。時計を見ると14時になっている。どうすればこれだけで1時間も経過するのか理解に苦しむ。

 

 例えば外に出てみる。最寄り駅まで歩く。変りもしない憂鬱の重力に負けた頭をなんとかして持ち上げてみると目の前に、穴の空いた黒い日傘を差した男が、その隙間から流れる僅かな光を浴びながら歩いている。その男が前に進んでいるのか私の方に向かっているのかすぐにはわからなかったが、暫く目を凝らしてみると、どうやら僕と同じ方向へ向かって歩いていた。形がはっきりせず、輪郭がぼやけて居る。なんだかうまく説明ができない。その男はだいたい私と同じような速度で、15mほど前を歩いている。センテンスが破れる。

 

 近所のおばさん二人が話しているのが聞こえてきた。「豆腐屋さん、きたわよ」見るとリヤカーを押しながら、小さなラッパを片手に、道路の端っこを申し訳なさそうにとぼとぼと歩いている。僕はまた顔を地面に落としたまま歩く。「ねぇ、なんでそんなに元気がないの?」誰が誰に言っているのかわからなかった。状況が理解できるよりも先に、頭の上を影が差した。顔を上げると、目の前に黒い傘の男が立っていた。「ねぇ、なんでそんなに元気がないの?」